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男は酷く歯軋りをしていた。
黒い本を持ち、過去未来を飛び、幾多の混沌を呼んだが…。
異界の者が憎き「息子」の味方になってからは、全ての歯車がそれらに向けてゆっくりと「息子」の想いに答えているような気がする。
このままではいけない…このままでは…。
そう考え、最後の手段を考えつく。
世界を破壊する。
己が「生きていたという証」を残す為にはそうするしかない。
そう考えた男は顔を酷く歪ませた。
「破壊セヨ…『奴』ヲ…深緑ヲモ吹キ飛バセ…ククク…」
父であるヴィクトールと対峙してから不安だったエルーカは、ストックの姿を見つけると、すぐさま走り寄る。
「お兄様! 無事で何よりです」
エルーカのほっとした顔を見たのか、ストックはにこりと微笑む。
「エルーカも無事で良かった」
「でも気を付けて下さい。 あの偽者がいるのかも…」
周囲を見渡すエルーカに対し、ストックは自分の事だろうかと考え、「…偽者…?」と己を指で指す。
慌てて「いえ、エルンスト王子の事ではなくてですね…」と、修正に入るオットーに対し、後ろから溜息が聞こえてきた。
「そんな分かりづらい説明では分かりませんよ」
数日振りに見る親友の顔に、セキュイアは思わず「レイト」と呼んだ。
周囲を見渡し、ライムに対し「あら、隣には珍しい顔をした王子様が」と、レイトネリアは冗談を言ってみる。
『…その後ろに、気難しい奴が苦い顔をしているがな』
ライムは後ろを振り返る。
そこには苦笑しているクローディアの姿と、何故かレイトネリアを睨みつけているゼーブルの姿があった。
感動の再会も終え、ストックは「そういえば、さっきの偽者という件は、もう片ついてあると思うぞ」と先程の件を話した。
「!! 対峙したのですか!?」
驚愕しているエルーカに対し、こくりと頷くストック。
「何か良く分からないけど、自然に帰っていったの!」
ぴょんぴょんと飛び跳ねるアト。
レイニーは腕を組み、複雑な顔で「うーん…良く分からなかったけど、本の操魔で作られたストックだったみたい」と言った。
「まさかそこまで出来るなんて…操魔はやっぱり凄いですね」
マルコがそういうと、「しかし、その操魔の悪用により世が混沌に包まれているのが現実だ」と、ガフカが反論めいたことを言う。
「さらには操魔の影響でマナの本質である精霊たちが消失されていたしな」
「あら、珍しくまともな意見を言いますね」
レイトネリアに言われたのか、はたまた本当に珍しい意見をしてしまった為なのか、クローディアは無言で顔を赤くした。
わちゃわちゃしているヒト達に、ライムは溜息をつきながら、『大分、"毒"が消え去ったが…こんな所でのんびりしているつもりなのか?』と言った。
「そうだったな。 ドリアード!!」
セキュイアがそう言うと、淡い緑が光り輝いた。
そこから出てきたのは、人の形をした木の精霊。
葉のような髪、身体は木のようになっており、長い耳には飾りが数個ついている。
それは現れるや否や、さっとセキュイアの背中に隠れた。
すかさずセキュイアは背中にひっついているドリアードを見る。
『あ…あの…ご…ごめんなさいっ!』
セキュイアの代わりに、クローディアは溜息をして「…何で謝る」と、問い詰めた。
『だって…あの…』
「恥ずかしがり屋なのですから。 あまり強いことを言ってはいけないですよ、クローディア」
「分かってる…」
「で、ドリアード。 中はどうなっている」と、セキュイアはドリアードを見つめて言った。
『あ…あの…怖いヒトが…』
「ヴィクトール、だな」
『よ…よくは分かりませんが、今からあそこへ行くのですよね…』
こくりとセキュイアが頷くと、ドリアードはしょんぼりとした顔を見せる。
「怖いのは分かる。 だが、行かなければこの世界は消失してしまうんだ。 それに、仲間の精霊たちの事も、かつてこの世界で生まれていた精霊たちの記憶も、お前は種子の中で垣間見ている。 それでも行けれないのであれば、私達だけで行くが…」
『そ…そんなことをしたら、貴方様は…』
主である精霊神が危険な場所へ行く…しかも、怖がっている己を置いて。
さすがにそれだけはドリアードとて、了承することは出来ないと感じたのか、『…分かりました。 どれくらい、チカラになれるかは分かりませんが、このドリアード 一生貴方様についていきます!!』と、言い放った。
やる気になった木の精霊に対し、ライムは『着いていくのは種子の設置場所までだがな』と、呟いた。
王宮へと向かい、一行が目にしたのはぼろぼろになった王城の姿だった。
ほんの数週間しか経っていない筈のそれは、まるで何世紀も経ったかのような。
金属にこびりついた錆を見て、オットーとウィルは寂しさを噛み締めている顔つきになっている。
「酷いもんだ。 俺達の街が…国が…こんな滅茶苦茶にされちまってたなんて…」
「許せない…許せないでござる…!」
悔し気な二人のその肩を、レイトネリアはぽんと叩いた。
王宮の中へと入った途端。ふと、ストックは何かを感じた。
そして王宮の奥、王の間の方を見つめる。
それに気付いたのか、セキュイアは「どうした? ストック」と声をかけた。
「何か聞こえる。 …助けてくれ?」
何かしらの声が聞こえるのか、ストックはそのまま王の間へと歩いていく。
そんな兄の異変にエルーカは「どうしたのですか? ヴィクトールがいるのはこの奥の王族の間ですよ」と伝えたが。
当の本人は微笑んでから「少し寄り道をする」と言い、その足取りを止める事はなかった。
酷く暗くなった王の間に入るとふわりふわりと人魂が大量に出現した。
それを直に見たレイニーとマルコは悲鳴を上げてお互い抱きつきあっている。
エルーカは「これは…一体…」と驚愕の顔をしながら言った。
それに答えるかのようにレイトネリアは冷静に「まぁ、これは大量の人魂ですねぇ」と返答する。
「そんなこと、見れば分かるよ!」
未だに恐怖におののいているレイニーの声に反応したのか。
人魂は『助けてくれ…』と震えた声を出した。
「ひ…! しゃ…喋ったぁ!」
「まぁ、人魂だからな」
さらりと言うセキュイアに対し、ライムは『さらりと言って良いのか?』と溜息をついている。
ストックは「それで、何から守って欲しいんだ?」と人魂に話しかけた。
『奴は…恐ろしいモノを召喚した』
「恐ろしいモノ?」
『奴はそれを“全てを還すモノ”と言った』
『このままでは世界は黒く塗りつぶされるどころか、全てが消失するだろう』
『“帝”を継ぎし者よ…。 我らが築き上げた国を…我らが命を賭して守った世界を…』
救って欲しいと言いたかったのだろうか。その言葉が出る前に人魂達は消えていってしまった。
一部始終ずっと傍観していたロッシュは「どういうことか良く分からんが、兎に角ヤツがいる“王族の間”に急ごうぜ」とストックに言う。
「ああ。 そうだな」
再び歩き出した一行だったが。
(全てを還すモノ…。 消失を望む…。 まさか…)
珍しく難しい顔をしているレイトネリアにクローディアは「どうした?」と声をかける。
「い…いえ…。 なんでもないです」
王族の間は宮殿の地下深くにある神聖な場所である。
そこは緑溢れるマナが大量に離散している為か、至る所に蔦が絡まり、木々が覆っている。
その場だけ自然に戻ったか。そうではない。
それはれっきとした「操魔」によるマナの殺戮の跡だと、セキュイアはすぐさま理解した。
「操魔」とマナは相反している。それ故に、お互い反発しあう。
その結果が衝撃波だったり破壊につながる。
それを繰り返し、地上は砂漠と化した。
刹那、レイトネリアは足を止めた。
全員足を止めた金色の女神に振り向く。
「どうした? レイト」と、セキュイアが言った途端。
ぶわっとした風が吹きすさぶ。
そしてそこに現れたのは難敵でもある…。
「ヴィクトール!!」
エルーカは悲鳴を上げるかのようにその難敵の名前を叫んだ。
当の本人はくつりと微笑み、「なるほど…。 この器はそんな名なのか…」と呟いた。
「何を言って―」
いるのか、とエルーカが問いただす前に、レイトネリアはすっとエルーカを制止させた。
いつものレイトネリアの反応ではない動作にエルーカは驚き、レイトネリアの顔を見た。
いつもとは違う…余裕な顔つきではない。その真逆の…真剣な眼差し。
そんなレイトネリアに敵は微笑んだ。
「そうか。 “深緑の王”を守る者達は君たちの事か」
深緑の王。その言葉でレイトネリアはすぐさま分かった。
「私は「アブソリュード」。 全ての“王”から世界を手に入れ、世界を自らの手で構築させる者」
その言葉に全員が驚愕をし、ロッシュは「お前…ヴィクトールじゃないのか!?」と言葉を発した。
「ヴィクトール? ああ、この器の事か。 この器は実に心地が良いものだな。 「全てを破壊したい」という心が、私をこの中に入れてくれた…」
ヴィクトールの身体を手で撫でくりながら話をするアブソリュードに対し、ストックは睨みつけながらも「ヴィクトールは何処に行った…?」と問いかける。
が、それを答えてくれたのは味方であるレイトネリアからだった。
「恐らくはもういない。 そうでしょう?」
その言葉にアブソリュードは頷く。
「その通り。 やはり、各自の世界を飛び回っているヒトとは気が合うものだな」
余裕を見せるアブソリュードに、レイトネリアは「…主から聞いてました。 破壊神なる者がいると」と呟いた。
「お前の目的は何だ…」
先程から無言で一部始終を見ていたセキュイアはアブソリュードに問いかけた。
禁句の言葉だったからか、それとも…。
真意はどうであれ、レイトネリアは「セキュイア!」と制止させようとした。
だが、アブソリュードはその問いに微笑みながら答える。
「私の目的は、お前達ガーディアンフォースが主と呼ぶ“深緑の王”を…全ての“王”たる始祖神共を滅し、全ての星々を消失させ、新たに私の世界を確立する事。 それが私の至高の目的であり、幸福となる」
ごくりとセキュイアは唾を飲み込んだ。
レイトネリアの反応から、ただのヒトではないことは分かった。
だが…これだけのプレッシャーを漂わせることが出来るのは…。
そんなセキュイアの反応を見たのか、アブソリュードはセキュイアに向かって「君は先程から、私に恐怖してるね…」と言い放った。
刹那、セキュイアに向かって風のように接近し、どん と壁に叩きつけた。
「セキュイア!!」
壁に叩きつけられながらもアブソリュードを睨むセキュイア。
それが気に食わなかったのか、セキュイアの首に手をかける。
「何が怖い? 私が怖いか? もっと恐怖をしろ。 そうすれば、私が優しく抱きしめてあげる…」
苦しむセキュイアに微笑みながら、アブソリュードは「そうか…君は…」と呟いた。
そしてセキュイアの耳に口を近づけ、こそりと何かを呟く。
その途端、セキュイアの顔から歪みが出ると、それを楽しむかのようにアブソリュードはくすくすと笑った。
その時、アブソリュードの、ヴィクトールの身体に二つの剣が突き刺さった。
アブソリュードは驚く顔もしないで、振り向いた。
そこにはクローディアとレイトネリアの睨みつける顔があった。
「私の友に何をするか!!」
クローディアはそう言い、レイトネリアも無言ながらもアブソリュードを睨んでいる。
そんな二人にアブソリュードは溜息をついた。
そして、セキュイアの首から手を離し、風のように舞うかのようにレイトネリアとクローディアの背後に回った。
「全く。 楽しんでいたのになぁ…」
ごほごほと咳き込むセキュイアに、微笑みながら破壊の女神は微笑んだ。
「ガーディアンフォースが3人もいると、此方がある意味不利になるね。 まぁ、この世界も私なりに結構楽しめたし、大人しく“深緑の王”に譲るとするか。 但し…この体が倒せたら、だけどね」
めきめき、と音を立てるヴィクトールの身体。
それでも尚、破壊の女神は微笑むのを止めることがない。
「私のチカラが十分に入ったこの器は、かなり強力だ。 ヒトとしての全ての機能はない。 あるのはただ一つ、破壊のみ。 用心することだね」
刹那、ヴィクトールの身体が爆発した…かのように見えた。
実際は、溢れるほどの木々に包まれた。そしてその中央には埋め込まれるように、取り込まれるようにヴィクトールの身体がある。
「な…何なんだ…コイツは―」
そう言っている間に、飛んでくる蔦や手のような枝。
ロッシュは、それをかわして後ろを振り向いた。
大理石で作られた地面が崩れている。そのチカラにぞくりとしながらも必死で回避をする。
「何よ、こいつ…。 燃やしてやるわ! 「Gファイア」!」
レイニーのGファイアに応戦する形で、エルーカの「バーストライト」と、ストックの「ウィルオウィプス」も発動し、ヴィクトールの身体に命中させる。
が…。ヴィクトールの身体は焦げ一つ付いていない。
「奴め…。 とんだ化け物を作り出したものだ…!」
「なんとか、倒さなくてはなりませんね…!」
クローディアとレイトネリアは跳躍し、本体のヴィクトールの身体に向かって剣を振り落とす。
だが、それは弾かれてしまった。
「!!」「!!」
そのまま、腕の機能をしているのか、蔓状のものが二人目掛けて襲い掛かった。
二人は必死に空中で体制を整え、蔓状の攻撃に備えるが、緑の斬撃が放たれ、蔓は無残に地面に落ちていった。
「大丈夫か!?」
緑の斬撃を放った張本人はレイトネリアとクローディアに言った。
「ええ」
「セキュイア、すまない。助かった」
親友二人にそう言われ、セキュイアはほっと胸を撫で下ろす。
そして、そのまま敵に向かって跳躍した。
それを見ながら、レイトネリアは「しかし、何故私達の攻撃や防御は聞かなくて、セキュイアの攻撃が効いたのでしょうか?」と呟いた。
それを聞き、アトは手を上げて「緑色の光なの!」と叫んだ。
「アト達が助けてくれた光が効いてたの!」
アトの言葉にレイトネリアは「成る程…。 マナの光ですね」と言った。
「マナの…光?」
「何だ、それは…」
ガフカとロッシュはレイトネリアに問いかける。
「マナは8種類の色があります。 火水風土月光闇木…。 それらの色を全て正しく組み合わせることによって、マナの光が出来上がるのです」
「だが、それは通常ならセキュイアにしか成せない特殊な業だ」
それを聞いて、ストックは「お前たちには出来ないのか?」と問いかけた。
「個々なら」「個々ならな」
金色の女神と紫色の女神は、同時に同じ事を考えていたのか、お互い顔を見合わせた。
『つまり、二人でならそれも可能ということだ』
すかさず属性獣はフォローに入った。
それを苦笑いしながら、レイトネリアは「ただ、一つだけ問題がありまして」と言う。
そしてちらりとストックを見た。
「ちょっとその剣を見せてくださいね」
レイトネリアはそう言い、奪うかのようにストックの腰にあった剣を手に取る。
何か分かったのか、そっとストックの手に剣を返した。
「ありがとうございます。 エンチャントできますね。 安心しました」
「…エンチャント?」
「そうだ。 セキュイアは自らの身体に全精霊のチカラを使ってマナの光を付けている。 だが、私達はそんな芸当は出来ない。 代わりに武器にならつけあわすことはできる。 但し、剣でマナの光に耐えられるものだけだがな」
「どうして剣だけなの? 槍とかじゃ、駄目?」
「リーチとフォーム、ですかね。 リーチがありすぎるとマナが浸透しなく、マナの光の効力が弱まってしまう。 フォームがないとマナの光の効果が薄くなってしまう」
「私達がこれを剣として使用しているのはその為だ」
クローディアはそう言い、愛剣を手に取る。
「エンチャントが成功できるのはその全ての条件が揃っていないと出来ないんですよ」
「それがヒストリカということか」
ストックは納得し、ヒストリカを改めて見た。
刹那、「だったら早くしてくれ…」という呻き声にも似た声が場に響いた。
「一人で全攻撃を…防いでいるのは…難なんだぞ…」
そう。レイトネリアとクローディアがヒトに説明している最中にも攻撃がやってくる。
喘ぎながらも必死に攻撃を受け止め、数十本ともいえる蔓を削げ落とすのは作業としてもきつい。
そんなセキュイアに、レイトネリアは苦い顔をする。
「あらあら。 そうでしたね。 二人とも怠慢状態で申し訳ありませんでした」
「やるぞ。 ストック、その剣を構えろ」
ストックはそう言われ、クローディアの指示に従い、剣を構える。
途端に、魔剣は淡い緑色に輝き始める。
「エンチャント完了しましたが、効果は大して持続しません。 魔法を唱え続けますから、セキュイアをサポートしてください」
レイトネリアはクローディアと共に集中しながらも、ストックに対して言った。
「分かった。 行くぞ、セキュイア」
身構えたストックに、当の本人は敵の攻撃を防ぎながら「やっとか…。 待ちわびたぞ…」と、器用に溜息までついた。
「とりあえず、こいつの手足になっている蔓共を全部切り取ってくれ」
「お前は?」
ストックの疑問に、セキュイアは余裕がありそうな顔で微笑んだ。
「最高の一撃をこいつに与える」
セキュイアはそう言うと、取り込まれたヴィクトールに愛剣の刃を向ける。
「だが、チカラを溜める準備が欲しいんだ」
それを聞くと、ストックは「任せろ」と言い、蔓を刈っていく。
セキュイアは、チカラを溜めながら「…正直、お前には申し訳なく思っている」と、ストックが聞こえる声で呟いた。
「何がだ」
「こいつにとどめをさせれなくて」
ストックは、こいつ、そんな事を気にしていたのか と、少し笑いを堪えながら「仕方ないだろう」と言った。
「それに、こいつはもう先王ヴィクトールじゃない。 異界から来たただの化け物だ」
言い合いしている間にぼとりぼとりと落ちていく蔓達。
それを見て、セキュイアは「そう言ってくれると助かる。 …そろそろいいぞ。 引いてくれ」とストックに言った。
「ああ」
丸裸同然になった化け物はただ、そこで佇んでいた。
セキュイアは、それを睨みながら「乱れる斬撃を見よ」と、綺麗な声で言い放った。
「まずは“雪”。 凍えるような冷たい殺意」
雪、と切り刻まれた化け物の身体が凍てつく氷で包まれた。
「次に“月”。 夜にも輝く曲折の導き」
次に、月、と刻まれた化け物の身体から、月のような眩しい光が漏れている。
「最期は“花”。 散らばるように、そして踊るように」
最後に、花、と描かれた化け物の身体をまるで散る花のように切り刻んだ。
「これこそが、“乱れ雪月花”。 我がチカラの最高なる剣技なり」
まるでソードダンサーの如く、容赦なく、さらには計算高く、切り刻まれたのだ。
どんな化け物でもそんなものは耐える筈などない。
文字通り、化け物と化した先王ヴィクトールは消滅した。
観客と化していた仲間達は、全員呆然としていた。
「やっ…たの?」
なんとか言葉を紡げたレイニー。
それに答えるように、クローディアは「みたいだな…」と、溜息をついた。
その言葉を聞いたマルコは「や…。 やったぁ!!」とはしゃいでみた。
刹那。ゴゴゴ、と地震が起こった。
それは止むことがない。まるで世界の終わりを示唆しているかのように。
そして地面からマナがあふれ出しているのを見て、エルーカは「このままでは、大量のマナが放出されてしまいます!」と叫んだ。
セキュイアは慌てて、木の葉が出ている種子を手にして、ドリアードを呼ぶ。
ふわりと現れた木の精霊はセキュイアから種子を手渡され、今でも溢れそうなマナを静め、緑色の光を出しながら旋回する。
そして、丁度良い家にでもなるのか、奥にある光を失った大きな結晶体の中にすぽんと入っていった。
その時、大きな結晶体は光り、きらきらと輝いている。
それを見たレイトネリアは「大丈夫ですよ。 これでこの世界は救われました」と微笑みながら言った。
しかし…。
「…おい、お前等…身体が…」
きらきらと輝いていたのはその大きな結晶体だけではない。
セキュイアから、クローディアから、レイトネリアから、そして人間と化していたライムからも溢れていた。
それを見たクローディアは「ああ…。 そうだな」と返答する。
「そうだな、って…」
冷静な返しに、ウィルとオットーは唖然としている。
「役目を終えたからな。 お前たちと別れなければいけないらしい」
セキュイアの言葉に、レイニーは「どうして…!?」と泣き叫ぶかのように言った。
「私達は、私達の主の世界を守護する者ですからね」
「役目を終えた今…別れは常。 そういうものだろう?」
金色の女神と黒の女神が言った、その時。
『先に行かせてもらうぞ』と、言ったのは人間の姿でいるライムだった。
『ヒトはあまり好かんかったが…お前たちといて、少しだけ楽しかった』
そうは言ったが、いざロッシュを見ると…。
『お前は元々好かんがな』
そう言い、光と共に消えていってしまった。
…あまりに、相性が悪かったらしい。
「なんだよ…それ…」
それを見たレイトネリアは、「まぁまぁ」とロッシュを落ち着かせる。
「そろそろ、私もおいとましましょうかね?」
レイトネリアがそういうと、エルーカは涙声で「レイトさん!!」と叫ぶ。
それを見て微笑みながら、レイトネリアは「大丈夫です。 またいつか会えますよ」と、言った。
「お世話になりました!」
「ありがとうございました!」
一兵士のウィルとオットーは地面に頭が付きそうな勢いでお辞儀をした。
「また…また、会いましょう!! それまでにこの世界をより良いものにしておきますから!」
エルーカのその言葉を聞いた金色の女神は、心地良さそうに微笑みながら「楽しみですね」と言い、光と共に消えていった。
それを見たのか、クローディアは「私も行くとするか」と言う。
先程から、冷静に一部始終を見ていたガフカは、「クローディア。 お前といて、奇妙な経験をさせてもらった」と言った。
貴重ではなく、奇妙なのか、と黒き魔神は思ったが、それは己も同じだと感じ、「私もだ」と言い、消え去る瞬間に微笑んだ。
「…レイトネリアさん…クローディアさん…」
消え去っていく、異界の仲間とも言えるべき存在達に、マルコは寂しく感じた。
「セキュイア…。 皆…皆いなくなっちゃうの!?」
先程から泣き続けているレイニーに、セキュイアは「いなくなるわけじゃないさ」と言った。
「この世界にいなくても、私達は本来の世界で生きている。 生きている限り、また会えるさ」
「おう、そう思ってるぜ」
『楽観的ですね…』
ロッシュの発言を返したのは、リーンだった。
「なんだよ。 お前、今日一日ずっとセキュイアのお膝元にいやがって…。 出てきた途端にそれか?」
そう。コルネ村を出発した後から、リーンの姿を見ていない。
『だって、あの時に極度のマナ不足だったんですもん。 節々痛くて外にも出れない…』
「マナで生きているからな、リーンは」
そう言って、セキュイアは先程からじっと見つめているアトを見た。
別れではない、と感じているのだろうか、微笑みながらぴょんぴょんと跳ね始めた。
「では、行こうか」
セキュイアがそう言った途端、身体は光に包まれていく。
そんな時、微笑みながら「ストック!」と声を発した。
「お前、この国の国王にでもなれよ。 そっちの方がお似合いだ」
そう言った後、光に包まれた身体は輝きと共に消えていった。
三人の女神が消えていった跡を見て、ストックは握り拳をつくりあげていた。
ナイドヴァルツと神々に言われる深緑の王がいる世界…一般的な通称ディ=ファールの世界に、隣接するかのようにあった寂れていた小さき世界は、光に溢れ、その姿を大らかに変えた。
それが本質的に神々に認知されるのは、もっと遠い未来の話になるが。